九州産直通信

歴史ある地元果物をブランディング。人気スイーツも生み出した「梨づくり」次の100年への物語

佐賀県伊万里市。みなさんも良く知る「伊万里焼」で有名な焼き物の町で、長崎県との県境に位置します。自然豊かな山々に穏やかな伊万里湾が望め、海と山の恵みが豊富なところです。
今回は、その伊万里市の山間部で、昔から作られている特産物の「伊万里梨」の栽培とブランディングを手掛けている「大川三世代」代表の田代慎仁さんとパティシエの亀飼英弘さんに「伊万里梨」と伊万里梨を使ったスイーツの魅力などを語って頂きました!

100年の歴史がある伊万里梨

伊万里市の中心部から北東に車で30分ほどにある大川地区は、三方を山に囲まれた盆地で果物の栽培に適した環境です。
明治39年、山間部の厳しい暮らしを改善しようと、先人たちが梨の植栽を奮起しました。必死の思いで山を切り開き「伊万里梨」は誕生しました。栽培は順調で、全盛期には100件もの生産者がいたと言います。全国に美味しい梨をたくさん出荷していたそうです。

独自ブランド「大川三世代」名前に込めた思い

前列左が田代さん

農業を魅力的なビジネスに変え、自ら育てる果物をブランディングしようと、2004年に誕生しました。
私(田代代表)自身、三代続く梨農家。ブランド名には地域名の「大川」に、三世代続く梨づくりの百年の歴史と、次の百年に受け継ぎたいという思いを込めて「三世代」をあわせました。
現在、私の他に2人の梨農家と1人のいちご農家計4人のメンバーを中心に、ブランド「大川三世代」として、梨の販売やスイーツの販売など、ECサイトを中心に展開中です。
7月から10月までのシーズン中には、観光農園で梨狩りも楽しめ、併設しているカフェも人気です。

ブランディングのきっかけは2つ

高齢化問題

現在の生産者数は全盛期の10分の一ほどにまで減少。就職して地元を離れる人がほとんどで、昔のように親から田畑を継ぎ、若いうちから農家になるといったことが激減しました。「農業は魅力的だと思える職業に変えたい」。自分たちで魅力的だと思わせられる新しい取り組みをしたかった。

消費者の声を直接聞きたい

自分自身が感じていた「どんな人が買って、食べてくれているのだろう」といった、素直な疑問です。生産者のほとんどが、出荷までが仕事。私は、その先の購入してくれた人たちの「声」を聴いてみたかった。自分たちでブランディングすれば、生の声が聞ける。そう思い、賛同してくれる仲間を募ろうと、地元の若手生産者らに声をかけました。

担い手を育てる工夫

栽培方法が楽になれば、梨栽培に魅力を感じてくれる人が増えるはず。
そこで、梨栽培で一番難しい「剪定作業」を楽にするため、「樹体ジョイント仕立て」を取り入れました。通常の果樹より剪定の手間が各段に減るのが魅力で管理が格段に楽になる。但し、通常の3倍以上の果樹が必要となるため、初期投資が大きいのですが、通常の棚状に比べてY字に角度が付いた枝のおかげで実の収穫率も上がります。
管理も楽で実もたくさん採れる。このやり方は、農業初心者でも安心して始められると実感しています。

乳酸菌を使った独自製法

「できるかぎり自然に近いもので」という思いから、自然界に存在している「菌」の力で土壌改良を考え、さまざまな素材を試験的に取り入れてきました。たどり着いたのは乳酸菌。土に混ぜるなど使い方や量は手探りで、毎日少しずつ試しながら適量を探りました。
その甲斐もあり、果実は大きく実り、味も数段良くなりました。驚いたのは集荷後の実の日持ちも良くなったこと。農薬の使用量もかなり減り、良いことづくめです。

大川三世代のブランド梨の魅力

糖度11%を超える希少な梨で、梨の栽培では珍しい袋掛けしない「無袋栽培」で作っています。
みずみずしさに甘さを凝縮したものから、酸味を含んだものまで時期を変えて8種類の品種が楽しめます。梨農園の開園は7月からを予定しています。
https://www.sansedai.com/pear_hunting

得られた「おいしい」生の声と笑顔

ECサイトでの梨の販売は、「伊万里梨」を広く知ってもらう機会となり、お客さまの「美味しい」の声が直に届くようになりました。知名度が上がったことで、観光農園に訪れるお客さまも増えました。4年前には、遠くから足を運んでくださるお客さまが、ゆっくり過ごせるようにとカフェスペースを併設。偶然のような出会いでパティシエの亀飼英弘さんに出会い、念願だった美味しいスイーツの販売も叶いました。
近隣に飲食店がないこともあり、地元にとっても期間限定の憩いの場となっています。 私たちにとって、皆さんの笑顔と美味しいの声が、何よりの励みです。

パティシエが語る梨スイーツの魅力

≪亀飼さんのお話し≫

梨のスイーツづくりで心がけているのが「食感」です。
イチゴや柑橘系などと比べると和梨は香りが少ない果物。多くの人が、水分が多くシャキッとした歯ざわりを想像するため、その印象に近い「食感」を残せるギリギリの調理法を模索しました。
カフェでは、梨のコンポートが入ったロールケーキに、そのロールケーキを使ったパフェも人気です。
私は、造り手として和菓子・洋菓子どちらも経験しているので、両方の“良い所取り”をしたスポンジが梨の美味しさを引き立てています。

人気のチーズケイク

ECサイトでも販売している人気の「果実のチーズケイク」。トッピングするフルーツは、大川三世代自慢の梨の他に、メンバーのイチゴ農園で収穫された新鮮なイチゴに、香りさわやか無農薬の天然レモンなど、季節の“地場産くだもの”にこだわっています。
美味しさの秘訣は、自慢のフルーツの味を活かす素材選び。チーズケイクに使用するチーズは、有名ブランドにこだわるのではなく、「果物の味を引き立たせるか」を重要視。素材と素材のマリアージュには時間を掛けました。商品は、ひとつひとつ、手作業で丹精こめて仕上げています。
伊万里まで足を運べない方も、一度、伊万里産の美味しさを知っていただきたいと思っています。

あとがき

「先代が築いた梨づくりを次代にバトンすることが使命」
田代代表のお話しは、梨生産に関わらず、日本の農業全体への熱い思いと夢で溢れていました。
そんな熱意をもって梨づくりに励む人たちが作り出す「おいしいもの」は、心も豊かにさせてくれる気がします。
生産者の愛もこもった作物。筆者は観光農園に足を運んでみようと思っています!

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この記事を書いた人

Motto: 食べるのも作るのも大好き

餃子好きで結成した食べ歩きの会で1晩に3店は食べ比べを楽しむことが喜び。食すのは餃子に限らない。